昨年のことを言っても鬼は笑わないと思うのだが、別に笑われても良いのだが、TSMC社が熊本に立ち上げる工場って、安全志向の車載用で、まぁ3世代前の代物なのですけど、それは良いとして、最先端ロジックLSIの新聞報道等に『1nmオーダーゲート』みたいな文字が踊るのですよ。この1nmっていろんな意味で凄いんだけど、半導体研究に携わってきた身にとってみると、もう魔法か?ってレベルである。写真製版的にどこまで作り込めるのかということも、機械的精度という点においても凄まじい。自動車なんて1μmオーダーでもびっくりだからね。
ややこしい話は大幅に割愛するとして、シリコン原子が自由に出来る電子の数とは異なる原子を導入して、その原子の持つ性質を活用してスイッチのオンオフとかが決められる。これでもややこしいかもしれないけど、普通に作ると、その異なる原子が自由に出来る電子の半径って、普通に作っちゃうと40nmくらいになっちゃうんですよ。すると1nmのゲートだとそれを遥かに越えてしまうので、それを狭い範囲に閉じ込める魔法が必要になるわけですな。
本当にやるのかなと思ったが十数年前なんですけど、なんでそんなことを思い出したかと言うと、頂いた年賀状に「あんたが話してくれた未来のプロセスがやってきましたね」と書いて頂いたからなんですよ。喋った本人は完全に忘れていましたけどね、聴いて頂いた方が、これまたニッチな世界の方なものだから、覚えていて頂いたという具合だ。1nmってシリコン単一の結晶だとすると、原子がきちんとパイ生地みたいになっているとすると(パイ生地よりもきちんと重なって並んでますけどね)7層くらいしか無い。その中にスイッチ用の電子を閉じ込める。もう魔法だね。
これが大きく成れば成る程、製造コストは下がってくるわけだけど、技術的に甘いものを国内で作られても技術力の向上には繋がらないし、そこで求められる消費財だって、最先端よりは低レベルの御安いものしか使われない。要するに、折角、最先端技術をお持ちの企業がやってくるのに、持ち込む技術が3世代前だと、国内の技術レベルは上がらないということだ。こんなところにも自動車一本足打法の日本の弱さが見えますな。株価値上がりで喜ぶ経済界なんだけど、世界から求められる技術が沢山あって値上がりなら良いのですけどね。そんなものに挑む企業と大学の関係になり続けていかないと。年賀状のコメントに意を新たにさせて頂き、感謝致します。