レトロ

執務室の窓枠に、今は動いていない古いエアコンが埋め込まれている。アルミ板をくりぬいてはめ込んで、室内・室外をストレートに繋ぐタイプで、その昔、団地などによく見られたタイプだ。何時から動いていないのか分からないが、はめ殺しという状態になっている。そのエアコンがなんとなく昭和レトロな雰囲気で、見た目、癒しになっている。育ってきた環境に近いものを見ていると、がきんちょの頃を想起させてくれる。それが過去を懐かしむレトロ感覚というものであろうか。

単に見た目だけではなくて、何と、雀のお宿になっているのだ。何か壁から音がするなと思って聞き耳を立てていると、エアコンからちゅんちゅんと声が聞こえる。今は酷暑でそんなところに入っていられないが、春先には必ずやって来て、連休明け位まで多くの家族が巣立って行く。執務室の庇の上を飛び跳ねて、飛ぶ稽古をしている様の、なんと愛らしい事か。かき乱された精神状態を平穏にしてくれる。

名工大の中において群を抜いて耐震性の無い建屋もいよいよ大改築である。筋交い手術だけでは雨漏りは収まらず、東南海地震で倒壊が先か、工事が先かという状態であったが、どうやら倒壊前に改修が成されるようだ。その為、このレトロな雀のお宿ともお別れである。寂しい気持ちが大きいが、これは止むを得まい。引っ越しの準備を整えて旅立つことにしよう。

旅立つと言っても当然だが、敷地内での移動である。その昔にはバッファーとなる建物があったのだが、それが無くなって以来、引っ越しは大騒動である。しかも近年では一気に改修ということを国が認めてくれず、半分ずつ分けてやると言うことで、半年後には工事の騒音の中で執務をさせて頂くことになる。雀さん達が居ない部屋はさぞかし殺風景であろう。しみじみと眺めるレトロな景色である。