小学生になる頃に、父親の靴を母親が磨いているのを見て、見よう見まねで始めたのがきっかけで、趣味に近いくらいに靴磨きという行為が好きである。好きというか苦にならないというか、まぁ、その程度ではあるが、普段の靴から山靴まで、靴クリームを使うのが好きなのかもしれない。
かれこれ50年近く前に、キウイというブランドのクリームを父親が使っていた。これを使えるようになったら一人前みたいな事を言われたのを妙にはっきり覚えている。大学生になって、革靴を購入し、キウイの靴クリームとブラシを購入し、なんだか急に大人になったような気になったのも、不思議と覚えている。靴クリームには、クリームとポリッシュの2種類があって、順番を間違えるとよろしくない。
よろしくないというか、靴屋のおやじ殿に言われたことを忠実に守っているだけで、順番を違えたことが無いので、どうなるのかは知らないが、革に油分をしっとりと与えて、足に痛くない状況を作り出すのがクリームで、雨などをはじき返すのがポリッシュである。山靴は基本はクリームだけで、使った後、しっかりと乾かしたのちにぐいぐいとクリームを限りなく薄く塗り込んでおくと、次の山行きが楽しくなる。
分けあって東京に出掛け、日曜の行事の如く靴の手入れをした。ベースのクリームに含まれる水分が飛んだあと、柔らかい毛のブラシで磨き、その後にポリッシュを掛け、また、水分を飛ばした後に再びブラシで磨く。ビロードの布地で仕上げたこともあったが、これは布目が移ることがどうも気に入らなくて、今ではブラシのみで仕上げられるようになった。米国では誰でも靴磨きから商売を始められる空気感がある。人々の足元を見て、格好を見て、いつかこんな紳士になろうと思って頑張る世界。靴を磨いているとそんな気持ちになる。頑張ろうって。そんな習慣を教えてくれた両親に感謝している私であります。