漆工芸

石器時代からもので、残って掘り出されているものと言えば「漆」。縄文時代前だから一万年よりも前だけれど、そんなころから、今、日本と呼ばれている土地に住んでいた大先輩達は、漆を見出し、それを固め、生活で用いた。凄いことだ。漆工芸を、例え真似事でもしたことがあったら、それがどれだけ凄いことか解るはずだ。発掘されるものにおいて、竹に石のやじりをつけて、葛で巻いて漆で固めてある。その部分だけが一万年を超えて残っているものだから、その時代の大先輩が漆を接着剤として活用していたことが解るのだ。

漆って面白くて、その土地の環境において最も乾燥出来る、即ち硬化するのだ。漆チオールが完全に抜けた状態になった時、それが漆が乾いた時だ。この漆の乾燥というのが面白くて、十数度から四十度くらいまでが乾き、次は八十度を超えないと乾かない。愉快である。また、湿度が七十%程度ないと乾かない。濡れていないと乾かないという天の邪鬼さである。こんなものは他に知らない。

乾いた漆は酸・アルカリにも耐え、ガラス工芸のエッチングにも用いられる程だ。面白いことに、不純物があると乾きにくい。だから、割れた茶碗の掛けた部分を漆と砥の粉を混ぜたもので整形しようとすると、一ヶ月くらいほったらかさないと、次の工程に入れない。極めて上等の、純度が高いものであれば一日もあれば乾く。尤も、塗った厚さが精々、0.1mm位のところだが。この乾きにくさ故に、筆のムラを自然と隠してくれるのだ。

いきなり漆工芸がなんじゃいなと言うことなのだが、仕上がるまでに相当の忍耐が居るのだ。これは正に教育に似ている。国家百年の計であり、大臣が「明日からこうやれ!」って叫んで講義をすると、そこからコロナウイルス感染が発生しないとも限らない。事実、大学生の感染の3%が講義室感染だ。教育の場は漆工芸よりも時間が掛かる。効果が見えるのは次世代、自次世代だ。焦ってはならぬ。それが教育である。