道具というのは面白くて、特に刃物はモノの形を変えていく道具で、とても面白い。以前、関の刃物が無かったらどうなる見たいな宣伝があって(今もあるのかな?)髪の毛を歯で食いちぎるという恐ろしいビデオだったのですが、それを刃物以外で何とかなりませんかと言うご依頼があった。ちょっとインチキっぽかったのだけど、砂消しゴムで切れますけど、それで良いですか?と言ったらTVに引っ張り出されてえらい目にあったことがある。ヒスイに穴を空ける原理と一緒だけどね。
お医者様のバックヤードのお仕事に病理試験片作りと言うのがあって、生体を取り出して、薄くスライスして、染色したり顕微鏡で観察したりと言うやつだ。直ぐに切れなくなるので何とかして欲しいとか、もっと薄く切りたいとか、そんなお話を頂いた。要するにカミソリの長い奴みたいな、使い捨てのものだから、そんなの切れなくなったら交換したら良いのにということなのだが、「もっと薄く」というところは共感したので、興味本位で引き受けた。
これが酷い刃先で、こんなことになっているのかと驚かされる。ただ、待てよと、これって生ものをスライスするには必要な刃先形状では無いのかと思ったりもするのだ。長い歴史を掛けて商品として売られているわけだから、下手に刃先をいじってしまうと、切れなくなってしまうのではと、ちょっとおっかなびっくりになる。しかし、面白いお仕事であるのは間違いないから、ちょっといじってみたわけだ。すると、金属母材のかなり深部にまで歪が入っていて「これでは直ぐに切れなくなるな」と実感した。
人間は横着だから、ぎりぎりの臨界値を越えたところで「目的が達成された」となると、それ以上に改善しようとはしない。医療のバックヤードで用いられるものにおいてもそんな現状が見えるのだ。これは日本だけのことなのか?とても世界の医療現場でこんな悲惨なものが使われているとは思いたくない。良品廉価と言われるが、そんなことを言ってきたから不良品廉価となっている現状に気が付かないのだろう。人の命に関わる道具がそんなレベルにある。驚愕である。