脱皮考

気圧配置を見ていると、梅雨明けギリギリの愛知県、太平洋高気圧の縁を巡った湿った空気が南北に連なる雨を降らせる。日本海にある低気圧が大陸から寒気を引き出し日本上空で衝突し、未曽有の豪雨を降らせる。しかし、毎年同じことを言っている。大雨を捕まえて瞬時に分解、水素と酸素を取り出せるような仕組みの開発に至っていないのは、まだまだ人類は自然に謙虚であるということなのかもしれない。しかし、河川の氾濫で亡くなる方がいらっしゃるのは、ある意味、自然に対するドン・キホーテかとも思う。

明け方、足元を見たら蝉が殻を破って真っ白い姿を表しているところに出くわした。おぉと立ち止まる。小学生の頃、山奥のお袋殿の実家の庭先にある古い柿の木で同じ光景を見た。それは古い記憶なのだが、鮮烈に覚えている。そして時々思い出し、母の「七年の思いが七日に凝縮される」という言葉を思い出す。そんな頑張りを忘れていないか、それが出来ているか。未来を想って今を過ごしているか。時々、その姿を思い出してはセミの抜け殻を見ていた。

それを、恐らく、50年以上ぶりに観たのだ。凝視したのだ。ゆっくり、じっくり、でも確実に。頑張れ!と言葉がでた。そして記憶と寸分たがわぬ姿に、その記憶の確からしさと、感激した様を思い出した。土の中で七年。真っ暗闇で七年である。そんじょそこいらの頑張りと比べては罰が当たる。振り仰げば木々を揺さぶる程の合唱。圧力を感じる如くの合唱である。思いっきり歌ったら良い。

殻を破る。今まで土の中で頑張って来た衣を破って、天空に舞い上がる。活動する世界の何と広い事か。パートナーから「一回り大きく成長するために外側のかたい殻をぬがなければならない」とのお言葉を頂いた。殻を脱ぐ、殻を破る。世界の流れは間違いなく変わろうとしている。旧態依然の世界から脱せねばならぬ。その時だよと声を掛けて頂いた。そんな気持ちになったひと時であった。