気分転換考

『夜、口笛を吹くと蛇が出る』と脅されて育ったこともあり、日没以降においては極力静音を心掛けるようにしている。自動車で近所を走る時においては、制限速度内を意識して、あくまでも極力であるが、騒音公害の発生源にならないように気を付けている「つもり」である。ドアの開閉にせよ、思いやりの気持ちがあるのか無いのかというところにおいても、同じことなのだと思う。案外、見ている人は見ているのだ。笑ってごまかしながらしゃべる何ていうのも、まぁ、時と場合によるが、許される範囲は狭いと思っている。これは『蛇が出る』話からはギリギリの距離の事例かも知れないのでこの辺りで止めておく。

この連休において、山奥のキャンプ場へということが許されない状況であり、日常と異なる環境を作ろうと、ベランダキャンプと洒落込んだ。テント生活をしたことがある人なら解ると思うが、テント内に逃げ込むと、外界から遮断されて、そこが山奥なのか草原なのか意識しなくとも良くなるという逃げ込み空間が出来上がる。マットを敷いてシュラフを載せて、ごろりと横になって天幕を見上げれば、笑いがこみ上げてくるというものだ。トイレは近いは水場は心配ないはで愉快この上ない。

ところが、山奥と明確に違うことに、やってみると気がつく。騒音である。住宅街の道路を猛烈な勢いで突っ走る輩の何と多いこと。暗闇を爆音立てて、とっくに絶滅したと思っていたバイクの人々。とてもではないが眠っていられない。山ごもりが出来ていたのは、この騒音が無かったからなのだと、改めて知った次第。天幕を張る場所が、何故に山の中なのか、漸く気がついたのだ。結局、昼間、コーヒーを飲みながら読書をする空間としてくらいしか役に立たないことが解った都会の天幕である。

外膜を掛けなければ「蚊帳」の様になっているので、風が通って気持ちが良い。山テントだから、チャックを閉めれば虫などは入れず、快適そのものである。その点は負け惜しみではなく、実に快適である。日中は騒音などそれ程気にならないのも面白い。人間とは我儘な生き物であるとしみじみと感じた。やはり『夜、口笛を吹くと蛇が出る』と言う教育は有難かったなと、この年齢でも親に感謝する次第である。そんな連休の一幕であった。